酒気帯び運転で逮捕された従業員に対する懲戒処分にあたり考慮すべき事項
2018.12.26
従業員が酒気帯び運転で逮捕された(報道等はされていない)のですが,どの程度の懲戒処分が適切でしょうか。考慮要素などを教えてください。
飲酒運転に対する懲戒処分は,公的な機関の調査によっても,懲戒解雇から譴責・注意処分まで様々です。裁判例では減給処分を有効としたものがあり,当該従業員の職種(業務上,運転を行う頻度など),酒気帯び状態の程度,使用者側に信用失墜等の実害が生じたか否か,反省の有無等,飲酒運転をすることになった経緯(動機),過去の処分歴や余罪の有無・内容(前歴等)等を考慮して処分を決する必要があります。
本件では,飲酒運転をした経緯に酌むべき事情があるとは言えないようですので,酒気帯び状態の程度や過去の処分歴や余罪によって,懲戒処分の量定を決める必要があります。 飲酒運転に対する社会の評価は非常に厳しくなっています。
懲戒処分は,企業秩序に違反する行為(非違行為)に対する制裁として科されるものですので,非違行為と制裁との間には社会通念上相当と認められる関係があることを要するとされています。そして,当該行為の性質・態様その他の事情に照らして社会通念上相当なものと認められない場合には無効となります。
このように,懲戒処分の量定は,社会通念が判断基準となりますので,飲酒運転に対する社会の評価を意識する必要があります。
一般社団法人労働行政研究所(労働法等に関する専門情報誌を長年にわたり発行する組織です)の調査によると,「事故は起こさなかったが,酒酔い運転のため検挙された」という事例では,懲戒解雇22.8%,諭旨解雇18.1%,降格18.1%,出勤停止35.6%,減給22.8%,戒告・譴責処分20.8%と懲戒処分の量定は様々です。
裁判例では,JR東海の運転士について,乗務点呼の際にアルコール検査を受け,乗務不可とされ,酒気を帯びて業務に就いたことを理由に減給処分を受けた事例で,当該懲戒処分を有効としたものがあります(東京高裁平成25年8月7日判決)。
この事例では,0.07mgという罰則の対象とはならない程度(酒気帯び運転で罰則の対象となるのは0.15mg以上です。)の量でしたが,次のような点が考慮されています。
① 旅客に安全な輸送サービスの提供に対する不安感,不信感を抱かせ,もしその事実が報道されるなどすれば,第1審被告の社会的信用を著しく失墜させること
② 公共交通・輸送機関に要請される絶対的安全性確保という見地からは非違行為の程度として軽いものではないこと
③ 前夜の飲酒の事実を認めており,アルコール検査を受けた上,「私の対策」と題する反省文を提出している点は情状として悪いものではないこと
④ 過去に同種の処分歴はないこと(ただし,同種の前歴等があった場合,処分において不利に扱うもので,それがないからといって,当然に有利に扱うべき事情にはならない,としています)
⑤ 平均賃金1日分の半額に相当する9409円をカットするものである。減給額それ自体は,多額なものとはいえないこと
このように,懲戒処分の量定には,当該従業員の職種(業務上,運転を行う頻度など),酒気帯び状態の程度,使用者側に信用失墜等の実害が生じたか否か,反省の有無等,飲酒運転をすることになった経緯(動機),過去の処分歴や余罪の有無・内容(前歴等)等を総合考慮する必要があります。