ご相談の事例
- 長年にわたって夫に苦労をさせられて、老後くらいは離婚をして自分らしく生活したいが、お金や体調が心配で踏み出せない。
- 老後に妻と穏やかに暮らしたいと思っていた矢先に、妻が出ていき離婚を求められた。
- 退職金や持ち家の財産分与について知りたい。
- 年金分割について知りたい。
高齢者離婚と離婚原因
配偶者からのDVや不貞がある場合に離婚原因となるのは当然ですが、長年の性格や価値観の不一致による離婚も多いのが実情です。
性格や価値観の不一致だけでは離婚原因にならないという理解はやや不正確です。このようなことをきっかけに、一方の配偶者が家を出ていき別居が開始され、数年が経過することにより、別居期間の長さが離婚原因として裁判離婚が認められることになります。また、裁判の結果を待たずとも、別居が長引くことで、夫婦生活が形骸化し婚姻関係を継続する実質的意義が失われ、協議離婚や調停離婚に至る例も多いのが実情です。
高齢者離婚と財産分与
高齢者離婚の場合、特に問題となりやすいのは、持ち家や退職金の財産分与です。その他にも、企業年金や生命保険等の財産分与もあり得ます。
- 持ち家の財産分与について
-
持ち家については、高齢者離婚の場合、住宅ローンの返済が終わっていることが多いと考えます。この場合、プラスの財産として、通常、離婚の際には財産分与の対象となります。つまり、離婚時点における評価額の2分の1を配偶者に分与する必要があります(まだ住宅ローンが残っている場合には、評価額から別居時点のローン残高を差し引くことが一般的です。)。
家を売らずに相手方配偶者に金銭で分配する方法を希望する場合はまとまった資金の準備が必要となります。資金を準備する余裕がなければ家を売却して売却金からお互いに分配することになります。
持ち家の購入資金や返済資金の一部として、一方当事者の結婚前の資産や親族からの贈与を用いている場合には、いわゆる2分の1ルールが修正され、これらが加味された分与割合になると主張できる場合があります。
- 退職金の財産分与
-
退職金は、退職の前後を問わず原則として財産分与の対象になるとされています。分与割合は基本的に他の財産と同様に2分の1ずつとされています。
具体的には、退職前であれば、配偶者の職場から退職金証明書などを取り寄せることを求めて、財産分与対象額を明らかにします。
退職までの期間がまだ長い場合であっても夫婦間で協議が整わないときには、離婚時点での一括払いが原則とされていますので、手元資金が不十分な場合は支払方法についてよく協議をする必要があります。
他方で、退職金の支給が間もなくに迫っており、配偶者に浪費・隠匿のおそれがある場合などは、仮差押え手続きなどを検討すべきこともありますので、なるべく前もって弁護士に相談することをおすすめします。
退職後の場合には、原則として別居開始時点の残高を財産分与対象財産と考えることになります。既に配偶者の浪費・隠匿などがあった場合、対応策が全くないわけではないものの、だいぶ難しくなるため、なるべく早急に弁護士に相談することをおすすめします。退職金の支給から別居までの間に、夫婦の生活費など相当な支出により減少した場合や、不相当な浪費であることの証明が難しい場合などは、減少後の金額が財産分与対象額となるのが原則です。
なお、対象財産となるのは、原則として婚姻時から別居時までの勤務期間に相当する退職金となりますので、再婚のケースや、別居期間が長いケースなどでは、金額の算定に注意を要します。
- 生命保険の財産分与
-
生命保険については財産分与の対象になりますが、満期金などではなく、別居時点の解約返戻金相当額を財産分与対象額とします。よって、掛け捨ての保険は対象にならず、低解約返戻金特約が付されているなどの保険の場合には思ったよりも対象額が少ないということがあり得ますので注意を要します。
また、生命保険は、配偶者を受取人に指定している例が多いですが、別居・離婚に伴い、子や契約者側の親族に指定が変更されるのが通常であり、このことは基本的に問題ないものとされています。
なお、婚姻前の積立部分に相当する額や、親など夫婦以外の者が資金提供しているものは、一方当事者の特有財産として、財産分与の対象にならないのが原則です(この点は、後述の企業年金等を含め財産分与一般に妥当します。)。
- 企業年金等の財産分与
-
厚生年金・共済年金については、年金分割手続きは別途存在しますので、後述します。ここではその他の年金の類型について記載します。
まず、勤務先で掛けているいわゆる企業年金については、退職金に類するものとして、別居時点で中途退職すると仮定した場合に受け取る一時金の額が財産分与対象額と考えられています。
企業型確定拠出年金についても、退職金に類するものとして、財産分与の対象になるとされています。具体的には、確定拠出年金運営管理機関に照会することで、年金資産残高がわかります。原則として、別居時点の年金資産残高(評価額)が対象財産となります。
個人型確定拠出年金は、企業でなく専ら個人が掛金を拠出するものですが、原資が給与など夫婦の共有財産であれば、預貯金等と同様に財産分与の対象となります。
保険会社、銀行、証券会社等が販売し、私的に加入する個人年金については、生命保険などと同様に、別居時点の解約返戻金相当額が財産分与の対象になります。
高齢者離婚と年金分割
婚姻期間中の厚生年金や共済年金については年金分割の対象となります。この点は、法律で定められており、家裁実務においてほぼ争う余地のないものとされています。
年金分割によって自分の年金がいくら増えるのか、減るのかについては、50歳以上の方の場合には基本的に年金事務所等に申請することにより見込額の資料を受領できるものとされています(単純に受給額が半額になる、半額が加算されるなどの計算方法ではありません。)。
高齢者離婚と別居・離婚後の生活
高齢になってからの離婚の場合、様々な面で困難を伴うのは事実です。
離婚に伴い、現在の住居を維持できない例も多く、離婚後の住居について前もって計画的に考えておく必要があります。
定収入のない当事者の方は、離婚により財産分与や年金分割を受けることはでき得るところですが、各家庭により受け取ることのできる金額は変わりますので、受け取る金額をもとに老後の生活をどうしていくかについて、子や兄弟姉妹などの親族、公的機関、弁護士などとよく相談のうえ、離婚後の生活設計を考えていくことが望まれます。(ただし、DVのケースなど、経済的に厳しくとも離婚を思いとどまるべきでない場合もあり得ますので、まずはご相談ください。)
離婚後は、配偶者との親族関係が無くなるため、相続権や遺族年金の受給権は無くなることになります。前述のとおり生命保険等の受取人の指定も変更されることが通常です。
長年にわたり家庭内のことをほぼ配偶者に任せてきた立場の方は、離婚後は、家事、家計管理、各種の手続きなど身の回りのことを基本的に自分自身で行う必要があります。最初は慣れないことも多いかと思いますが、徐々に慣れていき、できる限り計画的にこなしていくことが求められます。
以上のようなこともあり、双方の事情が許す場合には、しばらく一定のルールのもと家庭内別居を続けたり、別居婚として籍を抜かずに多少の行き来を認めたりする合意を行う例もあります。ただし、夫婦間の信頼関係が大きく損なわれているような場合には、かえって事態が深刻になることもあり得るので、慎重な検討を要します。
また、高齢になってから離婚をする場合、健康面や安全面などで何かあったときに備えて、できるだけ子や兄弟姉妹などの親族・知人その他の第三者の協力を得ておくことが望まれます。あまり気にしすぎず、例えば、身近で信頼できる方数名程度には、離婚のことや離婚後の生活のことなど包み隠さず相談して関係性を築いておくことが考えられます。