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企業法務Q&A例 企業法務Q&A例

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会社の取締役に対する責任追及

企業法務一般、顧問契約

当社は,東証スタンダード市場に上場している株式会社です。今般,取締役Aの担当職務において,当社内部規則に違反する不正な取引が見つかり,これにより当社は数億円の損失を被りました。
1.当社はこの損害について,当該担当取締役Aに弁償してもらおうと考えているのですが,この場合に必要な手続を説明してください。
2.また,最終的に話し合いにより解決する場合にも必要な手続があれば説明してださい。
3.できれば訴訟を起こさず,隠密に解決したいと考えていますが,可能でしょうか。
4.またこの場合,D&O保険(会社役員賠償責任保険)は適用になるのでしょうか。保険が適用になる場合に注意すべき点があれば教えてください。

1について
当該取締役に対し会社が賠償請求を行う方法としては,(1)訴訟を提起せず交渉で支払を請求する方法と,(2)提訴して裁判により求めていく方法の2通りがあります。

(1)訴訟を提起しない場合
責任追及等の訴えが提起されていない場合に当該責任に関し訴訟外の和解を行うことは,そのような責任の免除ないし一部免除にほかならないと考えられています。したがって,会社法425条以下の責任の免除に関する規定が適用され,和解が制限されます(岩原紳作編『会社法コンメンタール19 外国会社・雑則(1)』(商事法務,2021)600頁参照)。
2の(1)に記載するとおりですが,たとえば,会社法426条1項に基づく定款の定めがある場合は,取締役会設置会社においては取締役会の決議により,取締役会非設置会社においては取締役の過半数の同意に基づいて和解することを決定する必要があると考えられます。

(2)訴訟を提起する場合
これに対し,訴訟を提起して裁判により損害賠償を求める場合,会社の代表者は代表取締役ではなく原則として監査役(386条1項1号)となります(※1)。
取締役には,会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは,直ちに当該事実を監査機関(監査役・監査役会または監査等委員会。※2)に報告すべき義務があります(357条)。
よって,ある取締役が不正取引を行い会社が多大な損失を被ったことが明らかになったという本事例では,これを発見した取締役は,取締役としての義務に基づき会社の監査機関に報告すべきことになります。そして,報告を受けた監査機関において調査検討の結果,提訴が妥当であると判断した場合に提訴することとなります。

(※1)監査等委員会設置会社の場合は監査等委員会が選定する監査等委員(399条の7第1項2号),指名委員会等設置会社の場合は監査委員会が選定する監査委員(408条1項2号)となります。
(※2)指名委員会等設置会社においては監査委員である取締役に,執行役・取締役の不正行為や違法行為を発見した場合に監査委員会に報告すべき義務があります(406条)。

2について
(1)訴訟外の和解の場合
1(1)のとおり,訴訟外の和解を行う場合は責任の免除・一部免除に関する規定が適用されることとなっています。取締役の責任の免除・一部免除には以下のような法的規制があります。
① 全部免除
総株主の同意が必要です(424条)。
② 一部免除(原則)
株主総会の特別決議が必要です(425条1項,309条2項8号)。株主総会への議案提出に際しては,設置機関に応じて監査役・各監査等委員・各監査委員の同意が必要です。免除が認められる範囲は役職により異なり,代表取締役は報酬6年分,業務執行取締役は4年分,非業務執行取締役は2年分を最低責任限度額として支払う責任があります(最低責任限度額を超える部分が責任の一部免除が認められる範囲となります)。
③ 一部免除(定款に基づく場合)
善意かつ無重過失の場合に取締役会決議により②の最低責任限度額まで責任を免除できる旨を定款で定めた場合,取締役会決議により最低責任限度額を限度として責任を免除できます(426条1項)。
④ 一部免除(責任限定契約に基づく場合)
非業務執行取締役に関しては,善意かつ無重過失の場合に負担すべき責任の限度額を②の最低責任限度額またはそれ以上の額で会社があらかじめ定めた額とする責任限定契約を締結できる旨を定款で定めた場合,当該定款の定めに基づいて責任限定契約を締結することができます(427条1項)。
(2)訴訟上の和解の場合
訴訟上の和解に際し総株主の同意を得る必要はありませんが(850条4項),設置機関に応じて監査役・各監査等委員・各監査委員の同意が必要です(849条の2)。

3について
1の(1)で述べたとおり,訴訟を提起せずに支払いを求めることは可能ですが,有価証券上場規程(東京証券取引所)第402条により,上場会社には会社情報の適時開示が義務付けられています。役員の任務懈怠責任につき訴訟外で示談することは,開示が必要とされる列挙事由に含まれませんが,バスケット条項(「その他上場会社の運営,業務若しくは財産又は当該上場株券等に関する重要な事項」)に当たるか否かを検討する必要があります。
よって,開示基準(https://faq.jpx.co.jp/disclo/tse/web/knowledge6811.html)に該当する場合は開示の必要があると考えられますが,個別具体的な該当性については直接東証へ確認すべきでしょう。

4について
D&O保険(株主代表訴訟保険)の内容は保険会社により異なりますが,会社から取締役への損害賠償請求は,普通保険約款では保険の対象外とされ特約が必要とされている場合があります。そのため,会社から取締役への損害賠償請求が自社が契約している保険でカバーされているか,確認する必要があるでしょう。
保険金支払の要件は判決により法律上の損害賠償責任を負うこととなった場合とされていることが多く,和解については保険会社の同意が必要とされることが多いように思われます。自社が契約している保険の約款を確認の上,弁護士・保険会社担当者と打ち合わせながら進めるのがよいでしょう。
なお,D&O保険を締結している公開会社は一定の事項を事業報告において開示すべき義務がありますが,当該契約について行われた保険給付の金額等は開示事項に含まれませんので,これを開示する義務はありません。

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