就業規則に懲戒処分の種類を追加する際の留意点
2022.11.25
当社の就業規則では,現在,懲戒処分の種類として,戒告・けん責・減給・降格・懲戒解雇の5つを定めています。
しかし,「減給では軽すぎるが降格では重すぎる」と考えられるケースや,「降格では軽すぎるが懲戒解雇では重すぎる」と考えられるケースか何度かありました。
そこで,社員の行為に見合った処分ができるよう,この度,懲戒処分の種類として「出勤停止」と「諭旨解雇」を追加したいと考えています。
追加にあたり,就業規則を変更することになりますが,どのような点に注意すればよいでしょうか。
1 就業規則の変更にあたっては,労働基準法上,①意見聴取,②届出,③周知の手続をとることが求められています。
①は,就業規則の変更について,事業場の過半数組合(それがない場合には過半数代表者)の意見を聴く必要があるということであり,同意まで得なくとも,この要件は満たします。
②は,変更した就業規則を,所轄の労働基準監督官庁に届けるということです。この際,①で聴取した意見を付記した書面を添付する必要があります。
③は,就業規則を各作業場の見やすい場所に常時掲示したり,備え付けたり,書面の交付等によって,労働者に周知させるということです。
これらの手続は,忘れずに行うようにしましょう。
2 以上は手続的な点ですが,実体的にみれば,新たな懲戒の種類を追加することは,「就業規則の不利益変更」にあたると考える必要があります。
原則として,労働者の同意のないまま,就業規則の変更によって,労働契約の内容を不利益に変更することはできないとされています(労働契約法9条)。よって,労働者全員から,就業規則の変更について,同意を得ることが理想です。
可能であれば,変更後の内容等について,労働者に知らせる文書を作成したり,説明会を開いたりして,労働者全員から,同意書を取り付けたいところです。十分な説明をしないまま同意書を取り付けたり,無理矢理同意書を取り付けたりすれば,後に,「本心では同意していなかった」と言われてしまう可能性もあるため,変更の理由や変更後の内容などについて,労働者にしっかりと説明をする必要があります。
3 とはいえ,中には,同意書にサインをしない労働者もいるかもしれません。そして,その労働者が後に問題を起こし,貴社が,新たに創設した種類の処分をした場合,その労働者が,「自分は就業規則の変更に同意をしておらず,会社は自分に対してその処分はできないはずだ」などと主張してくる可能性も否定はできません。
そういった場合であっても,a.変更後の就業規則が労働者に周知されており,b.変更後の就業規則の内容に合理性があれば,同意をしていない労働者に対しても,変更後の就業規則が適用されるとされていますので(労働契約法10条),そうした事態に備えるため,これらの要件を満たすようにしておく必要があります。
4 まず,周知については,法令上列挙された方法に限定された,上記③の周知とは異なり,「社員が,変更後の就業規則の内容にアクセスでき,理解できる状態であればよい」と考えられています。「社員が理解できる状態」にするためには,やはり社員に文書を配布したり,説明会を開いたりして,変更について説明することが必要になります。
就業規則の内容の合理性については,判断自体が容易ではないのですが,本件の場合,新たな処分を創設するということは,労働者にとって悪いことばかりではないものと考えられますし(例えば,これまで懲戒解雇するしかなかったケースでも,諭旨解雇とする余地ができるなど),変更の必要性もあるものと考えますので,合理性は,比較的認められやすいのではないかと考えます。ただし,合理性の判断にあたっては,変更時に,労働者への十分な説明がなされたかといった点も重視されますので,先ほどご提示したような手段で,社員への説明の機会を設けていただければと思います。